第百六十四回芥川賞受賞作
「推し、燃ゆ」宇佐見りん、著
拝読。

作者がまだ大学生で、しかも
中上健次ファンらしい。

中上健次で卒論書いた身としても
興味が湧き、なになに
作中の推しって中上健次のことかい？
とさえ
思いましたがアイドルグループの
メンバーが作中の「推し」でした。

冒頭から
読みにくさを感じるのですが、これは
最近の作家のものを読むときに
起こることです。

すぐに馴れはしますが文体がわたくしの
親しんでいる小説のそれとは
変化してきているのでしょう。

芥川賞を読むたび
日本語文体の変化を感じます。
わたくしより年長の選考委員たちが
最終選考に残ったものだけとはいえ
何作もこういった作品を熟読して
選考に臨んでいるのって
本当にすごい。

また、テーマも変化しています。

主人公はごく当たり前に
学校に通い、生活することができず
居酒屋でのバイト代をアイドルグループの
一員である「推し」に
つぎ込み、推しに関する
詳細なブログの更新を続け
仲間と交流します。

その熱量は高く、
ファンというのは
DVDなどの作品を
「鑑賞用」「保存用」「人に貸す用」
の３つずつ購入するということを
初めて知り、すごい世界だなと
感心しました。

主人公は

「あたしのスタンスは
作品も人もまるごと解釈し続けることだった。
推しの見る世界を見たかった」

とまで言うのですが
その推しは世界最高峰のバレエダンサーでも
ハリウッドのトップ俳優でもなく
(推しの対象などそういうものですよと
言われればそうなのでしょうが)
人気投票で1万票ほどを集める存在にすぎず
女性を殴り、結婚して引退する
子役出身の人という設定なので
どんなに魅力的なのか
分かりにくい。

最終的に主人公は実生活に破綻をきたし
働くことも
学ぶことも
部屋の片付けも
洗濯も、食事も出来なくなっていくのですが
現代の女子はなぜこんなにも
病んでいるのでしょう。

飢えるわけでもなく
思い立ったら
いつでもコンビニでなんか買える程度の
お金は親がくれるし
凶悪犯罪に合う確率も低い日本で
未来しかないティーンネィジャー女性、の
抱えるこの生きにくさ、息苦しさ。

これがテーマになっている小説が
支持されるいまって
どんな社会なのでしょう。

中上健次を読んでいると
社会不適合者の登場人物からも
圧倒的な生命の力
「生きてる」ってことを
見せつけられるのですがね。

私はやはり古い人間のようです。

DJ KAZURU