山尾悠子　著
「歪み真珠」拝読。

外国の絵本のように
見たこと無い景色を見せてくれる。
それはもう幻想的だけれど
甘くはなくて、常に
深い毒をはらんでいる。

双子の美しい男女を描いた
「マスクとベルガマスク」が
印象的で、その文章の波に
溺れてしまいたいような。

読書というより
ただ感じ取っていくような時間。

・・・

「あたしよ、この馬鹿」

すらりと細身の長剣を抜いたのは
男装のベルガマスク、刺し貫かれたのは
花嫁衣装の歌姫ーーーーと
ひとびとが思ったのも束の間
純白のヴェールが落ちてあらわれたのは
別人の顔だった。

屋台崩しがさらに崩れて
舞台上は落雷を受けたような大騒ぎ、
四方の天窓が割れ砕けてどっと
海水が雪崩れこむに及んで
場内は俄に暗転の仕儀となった。

影絵となって終始舞台を支配していた
魔王クリングゾルの輪郭が
火花を散らしながら水没していくと、
手に手をとって逃れる双子を
邪魔立てする者はなく、くるくると
渦に吸い込まれていく鏡の破片に
一瞬だけ黒い帽子の顔が映った。

「お眠り、美しい子供たち」

舞台化粧も半ば剥げ落ちて
相擁した双子は
すでに女装とも男装ともつかず
白タイツの二対の脚は軽やかに
五線譜のみちを辿って空白に出た。

「最初からこうしていれば
よかったんだよ」

「ここはどこ。何も見えない」

「古い音楽のなか。
僕らはその登場人物だから」

「ああいけないいけない、
私は死んでしまう」

マスクの腕のなかでベルガマスクは
息絶えていた。

・・・

DJ KAZURU