「完本　中村吉右衛門」
小玉祥子　著、拝読。

実際に見た
「日向嶋」や「俊寛」
「松浦の太鼓」に「伊賀越道中双六」。
映像で見た
「盛綱陣屋」や「楼門五三桐」
などにまつわる記述を読めば
過去の舞台の景色が蘇ります。

いい芝居を吉右衛門さんには
たくさん見せて貰いました。

吉右衛門からの信頼が大きかったという
葵太夫の証言も出てきて
細やかなタイミングにも
こだわって舞台を作ってきたことが
分かります。

生まれながらに吉右衛門を
継ぐ運命で、母方の祖父とはいっても
養子に出されたわけですから、
プレッシャーもすごかったでしょう。

最近英国王室関連で「スペア」という
言葉が広まりましたが、吉右衛門の場合
スペアというより
もうひとつの大名跡を継ぐ使命が
課せられてたわけですから。

英国の王子もスペアではなく
別の王国の王になる運命だったら
事態は変わっていたのでしょうか。

それはともかく
吉右衛門さんのように、考え抜いて
役を作り、老いて肉体が衰えても
楽な動きには変更せず、ひたすら
全力でやりきった姿には感服させられます。

我々客席の側も、誠実というものを
舞台に観たのではないでしょうか。

御本人は自分を悲劇役者といい
フランス、ラシーヌの作で
王の妻が義理の息子に恋をしたことで
妻も息子を失ってしまう王の役を
演じてみたかったらしいです。

「フェードル」という芝居ですが、これ
観てみたかったな。

DJ KAZURU