花村萬月 著
「日蝕えつきる」拝読。
今年もっとも
悲惨な思いで読んだ小説は
江戸時代の底辺のひとびとを
書いた連作短編集でした。
今の世の中に生きていても
それなりに
つらいことというのはあるものですが
自分としては
真っ当に生きていれば
戦地に送り込まれるわけでなし
不治の病に冒されているわけでなし
つらいといっても
程度は知れています。
江戸時代というのは
まだまだ
無法地帯みたいなものだということが
しみじみ分かります。
親に売られて
物心つくときには女郎になっており
あっという間に
梅毒で体が腐っていく、とか。
悪政が高じて
村ごと餓えに襲われ
食べ物がなく、遂には
死んでいく家族の肉を
次々に食べていった、とか。
自分では
どうにもならないもの。
戦地に送られるのと
変わりない地獄を生きる
人間の話。
ほんの二百年前くらいは
普通に転がっていた話。
これ1787年の皆既日蝕が
モチーフだから。
日蝕がやってくるとともに
この世の終わり、つまり
死が主人公たちを包みます。
ようやく
人生を終わらせることができたんだね、と
ほっとしそうになるくらい
悲惨な話でした。
こうした物語を
醜くさや汚さではなく
心の痛みで書けるのが
花村氏だと思っています。
忘れられない短編集です。
DJ KAZURU
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