
カズオ・イシグロ
「遠い山なみの光」拝読。
戦後すぐの長崎。
老いたものは
戦中の思想から抜け出せず
新しい未来を生きるのだという
若い世代と反目し合ってしまう時代。
渡米させてくれる男との
あてのない未来を語るシングルマザーと
それを受け止めているようで
まったく噛み合っていない近所に住む
妊娠中の奥さん。
戦後も日本の女として常識的に
生きる女と、そのコースから
外れてしまった女の物語りかと思いきや
それから数十年たち
その時平凡な家庭で妊娠中だった女は
イギリスに住んでおり、戦後妊娠していた
子は成長し自殺している(あんなに
外国なんかいって大丈夫かしらと
心配していたのに!)。
彼女もまた最初の結婚に区切りをつけて
海外へ嫁いだのだと分かりますが
とても不思議な感じ。
米兵に渡米させてもらえることを
願っていたシングルマザーと
彼女が連れていた
奇妙な言動の少女はどうなったのか。
なぜ普通の家庭で暮らしていた奥さんは
最初の結婚をやめ渡英したのか。
もうすぐこの小説をもとにした
映画が公開されるようで
そちらでは何かしらの解釈がなされているのかも
知れません。
しかし日本語で読む日本が舞台の
話なのに、浮かんでくる景色が
長崎であって長崎ではない異国の感じがします。
これはカズオ・イシグロ特有だと
私は思っていて、その
私たちが知っている世界線とは
別の日本を知る感じが楽しいのです。
小津映画的である、と
読み解く池澤夏樹の
文庫解説が秀逸。
まさに淡々とした
会話劇でした。
DJ KAZURU
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