光と影のような
二人の若き歌舞伎役者を描いた
「ポセイドン変幻」所収
赤江瀑「春猿」（1972）拝読。

映画化で話題の
吉田修一はこれに刺激されて
「国宝」を書いたのかと思うような
短編でびっくりした。

弁天小僧と南郷力丸の
男色関係についても
切り込んだストーリーで
短編なのに凝縮感すごいです。

王道の歌舞伎役者なのに
一度見てしまった
ドサ回りの女形をどうしても
超えられないと感じる御曹司。

彼を支えたいと思いつつも
ドサ回りの役者に惹かれてしまう
床山。

芝居というものの
どこが魅力で、そこに何を追い求めるのか
歌舞伎の真実を照らし出すような
物語でした。

弁天小僧が女から男に
本性表すときの刹那に役者が
見せる、客を釘付けにするなにか。
その瞬間に起こることの
描写のリアリティ。
ああそうなんだ
我々観客はこういう瞬間に立ち会いたくて
芝居を見に行くんだと、その気持ちを
文章にするとこうなるのかと、もう
びっくりするような書きっぷりに
震えました。

登場する
役者の名は七之助と春猿。

これが書かれた時代に
私が思い浮かべてしまう
春猿も七之助も存在してなかったけど…

赤江瀑ってなんて作家だろう。

この人が今一部の
愛好家のためだけの過去の作家に
なってることは世の損失。

歌舞伎好きの方でも
知らない人が多いですね。

DJ KAZURU