アニメ「ジョゼと虎と魚たち」を
すすめられるまま拝見して
さて、原作はどうだったかなと
田辺聖子全集をひっくり返してみました。

アニメは足が不自由で
世間との交流も少ない25歳の女性が
年下の男性と知り合って
世界が広がり、自分の才能を
生かすことも考え、恋も経験する
という物語。

原作の設定と
セリフを上手く使ってあるけど
重大な性の問題が
まったく排除されて、心温まる
ストーリーになってます。

新しい世界で輝くジョゼ。

それが悪いというわけではないのだけれど
田辺聖子がそんな物語書くかしらと
思いました、やはり表層は同じでも
別の物語ですね。

原作のラストでジョゼは
好きな男と同棲のような感じになって
ゆっくり料理を作って
男の帰りを待ったりして、その
設定自体はハッピーエンドのようだけど
すごい描写です。

・・・

（アタイたちは死んでる。
「死んだモン」になってる）

死んだモン、というのは屍体のことである。
魚のような恒夫とジョゼの姿に
ジョゼは深い満足のため息を漏らす。
恒夫はいつジョゼから去るか分からないが
傍にいる限りは幸福で
それでいいとジョゼは思う。そして
ジョゼは幸福を考える時、それは
死と同義語に思える。
完全無欠な幸福は、死そのものだった。

（アタイたちはお魚や。
「死んだモン」になったーー）

と思うとき、ジョゼは（我々は幸福だ）と
いってるつもりだった。ジョゼは恒夫に
指を絡ませ、体をゆだね
人形のように繊い、美しいが力のない脚を
二本ならべて安らかにもいういちど眠る。

・・・

これがラストです。
すごいね、もうさすがと言うしかない。

解説によると
小川洋子が「官能とユーモアと死」という
タイトルでジョゼ論を展開しているとか
これもぜひ読んでみたい。

それにしても全集でジョゼ〜とともに
収められている短編の数々が素晴らしすぎる。

妊娠したことを告げて
戸惑う年下の男に
嘘よ、今日はエイプリルフールと告げる
「エープリルフール」。

若い叔母である自分に
夢中である甥を冷めた目で見る
「恋の棺」。

どれも田辺聖子の時代としては
抜群に自立した恋を楽しむ女たちが
描かれており、その文学的な深みを
中間小説の顔でさらりと書くところも秀逸。

・・・

「われら、山頂の黒き土に
巨いなる穴をうがち
人知れず恋の棺を埋めむ」

という詩があったっけ、西條八十だったかしら。
と、宇禰は思う。

「語りえぬ二人の恋なれば
われらが棺の上に草生ふる日にも
絶えて知るひとの無かるべし」

ためいきをつきながら、有二は
皿の料理を食べ、咀嚼する間
まるで仇敵のように宇禰に目をあてている。

宇禰は頷きながら、微笑してみせる。
恋の棺はもう、半分埋められてるわ。

・・・

DJ KAZURU