
太宰治って若いときは
それなりに心酔したけれど、今となっては
なんかモテてる割には
女をあまりわかってないような小説という
気もするし、近年の自分内評価は
けして高くないのでした。
そんなことを言っていると
書肆ひぐらし店主から
「太宰治の顔」という橋川文三の
文章が良いと教えてもらったので、早速
押収して(飲みしろと引き換え)拝読。

学校を出たばかりの時分(昭和21年秋ころ)
埴谷雄高の隣家に住んでいた郡山くん(誰?)に
誘われて、さほど気も乗らないまま
太宰が飲んでる三鷹の焼き鳥屋に押しかけた時の
エピソード。
やはりそれは美しかった。
それとも、異常であったといったほうが
正しいかもしれないし
優しかったというべきかもしれない。
ともあれその目鼻のつくりは、北方の
古潭にあらわれる巨人族の系譜を思わせる
ものであったが、その毛の深い
大きな手と指とは、かえって
人につくすことになれた繊細な表情を
あらわしていた。
その血脈に流れているであろう
暗い豪族的な記憶と、そのように
優しい屈従的なものをそなえた人間には
およそどんな意味でも文化人的な(無恥な!)
生き方は不可能なのではないか。
ぼくは、太宰の顔だけを見つめながら
そのような思いをさそう人間の顔を
見たことがないのに気づいていた。
彼は、それがいかなる無慙な結果に終わるにせよ
ただひたぶるに優しくある以外の
生き方を生きえないであろうような、そうした
無器用な種族であるように思われた。
まあ、よくちょっと会っただけの
文学者の印象をここまで感じられたものだと
思いますが、そのあとやはり同時期に
太宰に会った吉本隆明の感想が
一切の世の通念の逆を
ただ考えているだけでなく、生きている人間を
見たという驚異であった
と、言っていると知って
得も言われぬ優しさの正体の答え合わせを
したというエッセイなのです。
んー、太宰治について
こういう生きたエピソードを
初めて読んだ思いになりますね。
ちょっと太宰治の印象が揺らいだな。
関係ないけど
三島由紀夫から橋川文三への手紙っていうのも
なかなか奮っていて、
追伸に
「葉隠が日本唯一の恋愛論とは
正に御卓見と存じます。
あの本には
政治とエロスのすべての問題が含まれてゐますね」
とあって、痺れたのですが
令和になって文豪はもはや居らず
評論家だって同じようなもの。

こういうやりとりの
出来る人はいないでしょう。
・・・
「太宰治の顔」には
「郡山くん」なる埴谷雄高の隣人で
橋川文三の友人というだけの方の
名前が出てきますが
書肆ひぐらし店主の文章にも
「読者には正体のつかみにくい
どなたかの名前」がちょいちょい
登場するんですよね。
それはそれで謎が残されて面白いと
私は感じているのですが
これは、橋川文三最後のゼミ生であった
ひぐらし店主が、恩師のスタイルを
無意識に踏襲したものかも知れません。
本人に確認してみたら
当たらずとも遠からずという
感じの反応でした。
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